観念よりも肝炎が気になる今日この頃、皆様も元気に飲まれてますでしょうか。
先日「観念」に関して少し触れましたが、広告に関してはとても重要なキーワードだと思っていますので、改めて少し触れさせて頂きます。
「物質と記憶」の中で、ベルグソンは、知覚と記憶は同時に生ずるものだと言い、知覚を印象と観念に分けて全ての観念は印象に基づく、つまり印象の後に観念が形成されると言ったヒュームの論説を全否定しています。ヒュームは印象と観念の違いに関して、『印象の方が,観念よりも「力(force)と生気(liveliness)」において優っている点』を上げていますが、僕自身の経験を思い返すと、例えば消費者の購買行動を考えた場合、明らかに印象よりも観念に強く影響されていると言わざるをえません。単純に観念は薄められた印象の成れの果てだとはどうしても思えないんですね。
広告で最も数字に大きな影響を与えるのは「露出」であるという事は、広告業界に携わる誰にも異論のない部分だと思います。現前する知覚の純粋な情報を「印象」、経験を元に行動を決定づけるために想起する記憶を「観念」と定義した場合に、同じ経験が繰り返されるたび、知覚が「印象>観念」から「印象<観念」に変化していき、観念がほぼ全てを占めた時点で、中枢をスルーして「反射的」に行動する形になるからです。脳を持たないか或いは非常に単純な原生生物の触手が知覚を兼ね、食物に触れた瞬間反射的に獲物を捉えるように、限りなく行動の正解率が上がると中枢を経由するロスタイムを無くすのが生物の本能なんだと思います。大概の方は歯が痛んだら山ほどある歯科の中から基本的には「いつもの歯医者」に電話をしますよね?僕は牛丼が食べたいと思った時は無意識に「吉野家」の看板を探しています。中枢を通り越して反射的に行動をしている証拠です。この回路は「今までに経験ないほど治療が痛かった」「いつもと違って牛肉がパサパサだった」など新たな知覚によって観念が上書きされない限り、失われることはありません。そしてこの傾向は、自動車などより服や食事など反復回数の多い物ほど顕著です。
僕自身が広告デザインを制作する時に一番気をつけるのは、ターゲットの「印象」と「観念」の比率です。例えば誰も知らない仲卸業者が行う三日間限定の特設会場の展示即売会。広告機能別分類は短期直接行動広告になります。常連さんは誰一人いませんから当然オーディエンスの立ち位置は「印象>観念」となりますね。この場合は具体的な行動理由を挙げて大風呂敷を広げられるだけ広げます。逆に創業100年の名店の場合は如何でしょうか?完全に「印象<観念」で、反射回路が出来上がっている顧客も多数いらっしゃいます。この場合は、極力反射回路を書き換えない事に留意します。以前にも取り上げましたがニーズと満足度は反比例の関係です。ニーズを上げると反応数は増えますが満足度が下がり、せっかくの反射回路が中枢を経由することになるかもしれません。
上記の様な単純な二極化ではありませんので、二つの間をどの様に細分化してぴったり合うデザイン・企画を提案できるかが商業デザイナーの腕の見せ所なのですが、それ以前に根本的にちぐはぐな広告をよく見かけます。プロのデザイナーを介さずご自身で企画し、ネット印刷などで広告をされている事業主の皆様もたくさんいらっしゃると思いますが、その辺りを少し意識した広告作りをされるだけで数字が大きく違ってきますので、ぜひチャレンジしてみてください。