今では一万円札のおじさんとして顔が売れている福沢諭吉が、明治16年の「時事新報」に「商人に告るの文」というのを寄せています。僕が初めてこの寄稿を知ったのは、清水公一先生の「広告の理論と戦略」という著書の中でですが、とても興味深い内容ですので一部抜粋します。
(あまりにも読みづらい漢字は現代語に変えています)
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商人等の説に、広告をするには適当の時節ありとて、其の時期を鑑定すること甚だ肝要なりと信ずる者あり。
是亦一応其理なきにあらず。厳冬に函館氷安売の広告を為し、暑中に襟巻売出しの広告を為すとも、為めに店の繁昌を増すことは難しかるべし。
故に何時にても新聞紙に広告さへ出せば、商売繁昌疑ひなしといふべからずといへども、少し商売上の機転ある以上は、年中絶聞なく広告するをよしとするなり。
今の繁劇なる世の中にては、今日新聞紙上に見たる広告は、翌日か翌々日頃には全く打忘るゝを常とするなれば、一度新聞紙に広告したるものは二度の披露を要せずとすること大なる考へ違ひなり。
西洋商人の諺に「一年三百六十日、広告に最上の日は三百六十日なり」といふことあり。甚だ味ある言といふべし。
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おもしろくないですか?
フロイトがウィーン大学を卒業した翌々年、まだ現代の行動心理学の欠片も生まれるか生まれないかの頃に、現代の広告技法論の本質を語っています。
現代の広告技法では、意識と無意識双方の認知バイアスに配慮した戦略をとるのは当たり前ですが、残念ながらほとんどの広告主の皆さんは意識の方だけを重要視されます。心を揺さぶる映像とキャッチコピーで意識に刺さるコカ・コーラのCMも、何年もビルの上で変わらずに、無意識に目に入る風景の様になってしまっているコカ・コーラのロゴだけの看板も、実は同じように瞬間瞬間に脳内に下書きされる行動の選択肢を導く刺激としての役割を担っています。
その双方が、自動販売機の前に立った時、あの赤いコカ・コーラのボタンを押させるのです。
上記抜粋はほんの一部です。おそらくネットで検索しても沢山出てくると思いますので、興味のある方は全文をご覧になってみてください。あっ、清水公一先生の「広告の理論と戦略」も、広告入門にはとてもいい本だと思いますよ。創成社さんから出てますので、企業で広告を担当される方や、新米商業デザイナーの皆さんにはお奨めです。